日本語初心者のベトナム人が日本で感じた疑問
日本へ出張に行ったベトナム人の友人からこんな疑問をぶつけられました。
「この前日本の電車でお年寄りに席を譲ったんですが、その時に『すみません』と言われました。どうして御礼を言わずに謝るんですか??」
日本ではごくありふれたやり取りですが、言語的な面から考えると中々深い質問だと思います。本日は日本語とベトナム語を照らし合わせながら両国の考え方について書いてみます。
まず上で聞かれた疑問ですが、友人のベトナム人に対して回答するなら以下のような感じでしょうか。
「この『すみません』は席を譲るために、あなたに手数(迷惑)をかけてしまったことに対しての言葉です。この『すみません』の後に『ありがとうございます』が続きますが、この場合は『すみません』の中に『ありがとうございます』の意味も含んでいると考えて下さい。」
友人は「へ~そういうものですか」といった感じで聞いていましたが、ここに単語の互換性に限界を感じます。一般的に【ありがとう=cảm ơn】【すみません=xin lỗi】と訳されることが多いですが、あらゆる場面にこの単語をそれぞれ移管してしまうとおかしくなってしまいます。
【xin lỗi】の定義は「誤りを詫びる」ですから、電車で席を譲られた際に言うと、「どうして何も悪いことをしていないのに誤っているんだ?」となってしまいます。友人の疑問は日本語の【すみません】をベトナム語の【xin lỗi】にそのまま置き換えてしまった典型的な誤解だと言えます。日本人がベトナム語を使う場合でも同じような勘違いが起こる可能性がありますが、こういったことを言語学では「負の転移」と呼ばれています。
こういった間違いは現地で生の生活をしないと気付きにくいことですが、上の友人は「日本語は難しいですねぇ」とぼやいていました。同じことがベトナム語にも言えると思います。